2005年10月20日

ちょっと分かってきました。

内田先生の最新刊『街場のアメリカ論』(内田樹、NTT出版、2005)を読む。

そうしたらちょうどこの前書いた佐々木先生の 「マイクロ・スリップ」のお話が出ていた。

あら、なんでこう、ちょうどそのことを書いた直後に、同じことを書いてあるものを読んでしまうんでしょう。

しかもイチローの話を持ち出すところまで一緒だ。(同著、p41参照)

どこかで聞いたお話を「聞いた話」であることをすっかり失念して、時を隔ててあらためて「自分で思いつく」 ということはよくあることである。

内田先生の著書をばしばしと読みブログもまめに読んでいる人間が、内田先生の言葉に「お、 まさにちょうど私が考えていたことを言っているではないか」と感動を覚えることは、そう不思議なことではない。

どこかで言っていたのを聞いていたのかもしれない。覚えてないけど。

でも、内田先生、「マイクロスプリット」じゃなくて「マイクロ・スリップ」なんですけど…。


しかし、それにしてもさすがあいかわらず見事な語り口である。

話があっちこっちへぴょんぴょんと跳び回りながら、気がつくとそれらの糸がいつの間にやら見事なタペストリーを編み込んでいるような、 職人芸のようなものを感じる。

そんな職人芸にほほーっと感心しつつ、新しい「アメリカ」の像が私の中に浮かび上がってくるのを愉しむ。

「アメリカ」という国を見るのに新しい視点が加わって、「アメリカ」という国がまたちょっと分かってきた。


こういうなにか新しいお話を聞いたときにすぐ「分かりました」という人がいる。

そういう人はたいてい「よく分かっていない」ということが非常にしばしばある。

だいたいそういう人は話を聞きながら、似たような自分の経験を思い浮かべて「ああ、あのことか」 と自分の経験に置き換えて解釈してしまっていることが多いので、その人自身の知的フレームになんのインパクトも与えていなかったりする。

「分かりました」と口にすることは、理解という「運動」の停止を意味する。

だって「分かった」んだから。

昔、私がしゃべっていることにすぐ「分かりました」という人がいて、 なんだか私の言葉がぜんぜんその人に届かずに空中に消えていってしまっていることに腹が立ってきて、

「すぐ『分かりました』って言うな。『分かりました』って言うくらいなら『よく分からん』と言え。」

と言ったことがある。

「よく分からない」という状態であれば、まだ理解の「運動」は終わっていない。

だからこの言葉はなかなかいいと思ったのだが、実際に一生懸命しゃべった後に相手の口から「よく分からん」 という言葉が飛び出すのを耳にすると、予想以上にガックリくるということに、言われて気がついた。

うーむ、ぐったりくたびれて話すことに対するモチベーションが著しく下がってしまうというのは問題であるな。それに 「よく分からない」と口にすることが、無意識に理解を進めることを阻害することになりかねない。

「困ったな、なかなか難しいものだ」と考えていたら、ふと妙案を思いついた。

この言葉を思いついたときは嬉しさのあまり思わず小躍りをしてしまうくらいであったが、それはどういう言葉かと言うと、

「ちょっと分かってきました。」

という言葉である。

おお、これはいい。自らを理解へと向かう運動状態のまま捉えている。

「理解へと向かいながらも、まだたどり着いていない」というきわめて宙ぶらりんな状態でありながら、 話を聞く前よりもきちんと理解へと一歩、着実に足を進めている。

それは出前の遅いそば屋さんが催促の電話に対して「今、向かってます。」と言うのと似ている。今、向かっている最中であるならば何も言えない(あんまり関係ないか)。

それに「分かりかけている」という聞き手のつまずき状態は、話し手に、「じゃあもっとしゃべってみようか」という気を呼び起こす。

しかも理解状況によって、形容をうまく変えれば汎用的にどんな場合でも使えるのである。

けっこう理解が進んだな、と思ったら「だいぶ分かってきました。」と言えばいいし、もうほとんど理解したな、と思ったら 「かなり分かってきました。」と表現を使い分ければいいのである。

いずれにしても理解へと向かう運動状態を保持したままである。

そして「完全理解」というゴールには拝して接さず、アンタッチャブル。なまねこなまねこ。

これならけっしてたどり着かないニンジンを眼の前にぶら下げた馬のように、どこまでも走っていくことができる。

…あんまりいい喩えじゃないな。でも決してたどり着かないものをどこまでも追いかけることができるって実はシアワセなことだと思う。

「まだまだ深い理解ができるはず。」

うーん、「運動」は終わらない。

posted by RYO at 21:16| Comment(6) | TrackBack(0) | 雑念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なんだかよく分からないよ!
Posted by 考える葦 at 2005年10月22日 19:58
考える葦さん、こんにちは。
実は私にもなんだかよく分からないんですよ。
発作的に思いつきで書いてるもんで…。
でも「よく分からない」ってことは、まだ分かる余地があるってことですからね。
もうちょっと考えてみます…。
Posted by RYO at 2005年10月23日 07:18
『街場のアメリカ論』へのコメントありがとうございます。
「マイクロスプリット」じゃなくて、「マイクロスリップ」でしたか?
ひどい間違いですねー。
さっそく重版では直しておきます。
ご叱正に感謝します。
Posted by うちだ at 2005年10月24日 13:09
わお!内田先生からじきじきにコメント頂戴してしまいましたよ。
いえいえ、多忙中にも関わらず、このような乱文にきちんと眼を通していただいて、こちらこそありがとうございます。
ますますのご活躍と、適度な休息がとれることを、心よりお祈りしております。
Posted by RYO at 2005年10月24日 20:21
こう、ちくっと 楊枝のアタマの先ほどに
わかってきたような感じです。
Posted by 考えるヨシ at 2007年10月19日 01:04
ちくっとですか。良いですね。
ぐさっと分かってくるまで、よりいっそうの精進を重ねてみてください。
Posted by RYO at 2007年10月19日 07:27
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