2006年05月16日

睦稔さんと時空間のパラドックス

月曜日。五月晴れの気持ち良い天気の中、京橋にある名嘉睦稔さんのギャラリー、「ボクネンズアート」 に遊びに行ってきた。

東京駅から歩いて10分。大きなビルの狭間にポツンとある「ボクネンズアート」に入ると、お香が焚かれて、ほのかにいい香り。

現在、催されている「海響展」は、人魚夜話・珊瑚花畑シリーズを中心に、海をモチーフにした作品が並んでいて、 全体的に深い青色を基調としてまるで海の中のような感じ。

午前中で人が少ないこともあり、スタッフの方がお茶を出してくれたので、ソファに座ってしばし談笑。

ガイアシンフォニー第四番」 のときに観た、睦稔さんの“彫り”のさまの神がかり具合について語り合う。

「あの彫り終わって自分の作品を見たときに『あ、こんなところに虎がいる。』とか言ってたりして…。」
「そうそう! あれがすごいですよね。もう完全に無心なんでしょうねぇ。」
「最初に湧いてきたインスピレーションが、彫っているあいだにどんどん変化していってしまわないうちに、 なんとか版木に落とし込みたい思いで一気に彫り上げてしまうそうですけど、あれでもまだもどかしくて、 もっと早く一気に彫り上げたいそうですよ。」
「ひえ〜、あれでも遅い! でもその感覚はなんとなく分かるような気がする…。」
「自宅からアトリエまでも歩いて20分くらいなんですけど、2時間たってもたどり着かなかったり…。」
「あぁ〜はいはい。道草食ってフラフラしてるんですよね(笑)。ボクもそういうところあるんで気持ちは分かります。いいですよねぇ。」

…なんて感じで、睦稔さんの人となりのお話で盛り上がる。

本物とは言わないまでも、プレアート一つくらい欲しかったけど、 それは涙を飲んでまた日を改めて買うことにして(買うことは決定している)、睦稔さんの著書と画集、 可愛らしい少年が勝ち誇った顔している「DOUDAI!」のTシャツを購入。

「また来ます〜。」と、気分良く足取りも軽く、ギャラリーを後にする。


その足で、東京駅から山手線に乗って上野へ。

上野公園を歩いていると「ロダン展」の看板が目に飛び込んできた。

「あ、ロダン展!」(驚)。

と思ったら、門が閉まっている。

「あ、月曜日!」(泣)。

いったん期待させておいて落とす、落胆のセオリー。

残念。 でもまぁ今日は別の目的で来たのだ。

上野公園をぐるっと回って不忍池など見ながら散歩したあと、そのまま芸大キャンパスへ。

さすが芸大、女子学生が絵の具で汚れたつなぎを着て歩いている。

じつは今日芸大に来たのは、茂木健一郎先生の授業(美術解剖学)を聴講するためなのである。

と言っても、今日の授業は茂木先生の畏友、竹内薫先生を招いての特別授業。

竹内先生は、今ベストセラー中の『99.9% は仮説』(竹内薫、光文社新書、2006)の著者であり、 小難しい物理学や数学の話を分かりやすく説明してくれる入門書や小説を書いていらっしゃる方である。

その説明は私のような 『数式が並ぶととたんに焦点が遠くなる「数式遠視者」』にとってもたいへん分かりやすいので、 私にとってはありがたい先生のうちの一人でもある。


きっかけは、いつものように茂木先生のブログを拝見していたら、 今回の芸大の授業の案内とともに「聴講歓迎!」と書いてあったこと。

「それはありがたい」と、私はその言葉を真に受けてのこのことやってきたのであるが、でも“モグリ” とはいえ大学の授業なんて久しぶりなので、その感覚に懐かしさを感じるとともにドキドキする。

暗い校舎に入ると、その“馴染まなさ”の違和感が私のからだを包み、「ホントにいいのかな?」とやや不安になる。

教室に行ってみると鍵が閉まっていて開いてない。 まだ早かったか…。

外階段がすぐそばにあったので、外に出て吹き抜ける風を感じながら茂木先生の『クオリア入門』(茂木健一郎、ちくま学芸文庫、2006)を読みつつ待機。

しばらくすると聴講している学生たちがぞろぞろやってくるが、みんな扉をガチャガチャやって「開いてないじゃん。」と待ちぼうけ。

そのうち茂木先生と竹内先生がともに登場。

「え? 開いてないの?」ときょとん。

どうやら前の授業の先生が、学生たちを連れて博物館に行くのに鍵を閉めて出て行ってしまったらしい。さすが芸大…ってそんなこと感心している場合じゃない。

両先生と学生と聴講生と、みんなそろって廊下で待ちぼうけ。

茂木先生と竹内先生は壁に寄りかかってざっくばらんに話している。 へぇ〜、そういう関係だったんだ(あとで聞いて知ったのだけれど、 同級生だったらしい)。

15分くらいして事務所の人がようやくマスターキーで開錠。

みんなぞろぞろと教室へ入り、全員席についたところで、いよいよ授業開始。


竹内先生の講義のお題は『時間と空間:四次元空間を思い描く方法』。

去年が国際物理年だったことから、そのロゴマーク(光円錐)についての説明に始まり、四次元空間の記述法、 時空間の記述法についてプロジェクターを使って分かりやすく説明していただく。

そして時空間の話から発展し、アインシュタインの相対性理論の話。

アリスとボブの二人がいたときに、アリスから見たときにボブの時計が遅れて見え、 ボブから見たときにアリスの時計が遅れて見えるという現象があった場合、相対性理論では「そのどちらも正しい」と言えるという事実。

一見矛盾した関係にどう整合性をつけるかという解法は、なかなかにしてトリッキーで「そんなのアリなんだ。」というのが正直な感想。

ほとんどトンチとしか思えないが、それは私の頭の固さゆえ。もっと柔らかく柔らかく…。

ところで相対性理論というものは、私たちの日常生活とは遠い理念上の話のように思われるかもしれないが、 とっても身近に存在しているものである。

たとえばカーナビなどで利用されているGPS。

地球上空を周回している衛星から電波を受けて、位置情報や時刻など最新情報をつねに更新し続ける技術であるが、 そこには相対性理論がなくてはならないものとして存在している。

地球周回上を高速で移動している衛星は、地球上にいる私たちとは違う時空間軸が適用されるので、 地球上の設定のまま何もしないでいると徐々に地球上の時空間とズレてきてしまうのである。

そこで相対論的な補正を行う必要が出てくる。

カーナビの信号を発しているGPS衛星は、高速で移動する際の「特殊相対論的効果」により地上の時計より遅く進む一方、 地上より重力場が弱いという「一般相対論的効果」により、地上の時計より早く進む。

これらの相対論的効果を補正するために、GPS衛星の時計は1日に38マイクロ秒ずつ遅く進むように調整してあり、 それによってはじめて地球上の私たちは、狂いのない時刻情報を衛星から受け取ることができるのである。

つまり、あなたの車に相対論。
あなたの携帯電話にも相対論。

天才アインシュタインの頭脳が導き出した前世紀最大の発見は今、あなたのポケットに納まっている。


それはともかく、竹内先生の授業の話であった。

時空間と相対論の話は私も興味があってしばらく勉強していたけれど、このように直接教わるとまた改めて勉強になる。 美術系の学生にも分かりやすいように丁寧に教えてくれるし。

「ふむふむ、ありがたいなぁ。」と思って、時間軸の話を聞いていたら、ハッと気がついた。

前にも書いたけれど、 私はいつも人のからだや動物のからだ、植物のカタチを観察するときに、そこにカタチとして表われている「波」や「流れ」 の様子を注意深く観察するように心がけている。

姿勢とはしぐさの繰り返しが可視化されたものである。

だからたとえば「5」という数字を見たときに、奇数であるとか素数であるとか、そういった時間軸を含まない要素だけでなく、 それが1から増えてきたものなのか10から減ってきたものなのか、あるいは10が半分になってできたものなのか、 そういうことも含めて観察しないと、有機的な、つまり「流れ」を持つモノの観察はその本質的なところがすっぽり抜け落ち、 誤謬に陥りやすい。

なぜなら理念上の「5」は「5」以外の何者でもないが、自然界に存在する「5」は必ず「ほかの数字」を経てやってきたものだからである。

今回の話を聞いていて、それってつまり「現在」に「過去」と「未来」を含めて観るという、三次元の世界に「時間軸」を含めた 「四次元的観点」ということだったのではなかろうか、と思い立ったのである。

なんてこった! そんなすごい芸当の習得を私は目指していたのか!

世に達人と呼ばれた人たちは、そのような観点を見事に使いこなしていたんだろうか…。

う〜む。それが四次元かどうかしらないけれど、私もなんとかその境地を目指そう。

精進精進。


そして授業の最後、質疑応答の時間を設けていただけたので、私の長年の疑問(ってほどでもないけど)を竹内先生にぶつけてみようと思い、 思い切って手を挙げてみた。

なんと、“もぐり”らしからぬ勇気ある態度。(身の程を知らぬ態度とも言う)

「あのぅ、くだらない質問で申し訳ないんですけど…、先ほどアリスとボブを喩えに話していらっしゃいましたよね。」
「はい。」
「二人が一緒にいるときにですね、二人の時計が同じ時を刻んでいたとします。」
「はい。」
「ある日、アリスがボブのもとから光速で逃げ出したとしますね。」
「はい。」(後ろのほうで女子学生がクスクス笑っている。)
「すると相対性理論により、ボブからアリスの時計を見たとき、アリスの時計は遅れて見えますよね。」
「はい。」
「同じようにアリスからボブの時計を見たときも、また遅れて見えますよね。」
「はい。」
「そのあとアリスが思い直して、再びボブのもとに戻ってきたとき、二人の時間の関係性はどうなるんでしょう?」
「それはですね、離れて戻ってきた方の時間が絶対的に遅れます。」
「ええっ?!」

なんと竹内先生、「絶対的」とあっさり断定。(って「相対論」じゃないの?)

話によると、アリスが離れて戻ってくるときに「Uターンする」ということがネックらしい。詳しいところまでよく分からないのだが、 「Uターン」のときに働く「加速度」という力が、二人の相対性の関係を変えてしまうそうである。

ガーン! なんと…衝撃の事実。 まさか「Uターン」が絡んでくるとは…。

けれどもその説明を聞いた瞬間、すぐさま「じゃあUターンせずに帰ったらどうなるんだ?」などという更なる疑問が頭に浮かび、瞬時に 「アリスがUターンせずに帰れる可能性」を拙脳をフル回転させ考えてみたが、「Uターンせずに帰る」という芸当はどうにも思いつかなかった、…てゆうか答えてくれてるんだから、ちゃんと人の話を聞(略)

ちなみに竹内先生によるとその問題、「双子のパラドックス(⇒Wiki)」 として有名な話だそうである。

ふ〜む、そうであったか。

つまり、同じ時を刻んでいた二人が離れ始めたときは、お互いにお互いの姿が、さも時間がゆっくり流れているかのように見えるが、 それは相対的なものであってお互い様である、と。

けれどもひとたび片方が「やっぱりあの人のもとに戻ろう」と思い直して、相手のもとへと戻ってふたたび一緒になったときには、 確実に戻った方の時間は遅れてゆっくり進んでおり、待っていた方は先に、もうすでに未来へと進んでいる、と。

ふ〜む…。なるほど〜。

私の頭の中ではまったくトンチンカンな空想をしながら、妙に納得。

「双子のパラドックス」という名前より「元サヤのパラドックス」とかいう名前のほうが、“受け”がいいんじゃなかろうか(笑)。

まぁ、物理の法則で“受け”を狙ってもしょうがないんだけど…。

と、私の長年の疑問も解けたところで大満足のうちに講義が終わる。パチパチパチ(拍手)。

竹内先生、いろんなインスピレーションをどうもありがとうございました。ぺこり。

このような場を提供してくれた茂木先生にも、もちろん感謝です。ぺこり。


そのあと芸大キャンパスを後にし、ふたたび上野公園内をてくてく歩き上野駅へと戻るが、せっかくだからそのまま御徒町まで歩くことにして、 アメ横をフラフラと物色。

ファンシーでキッチュな商品が山と積まれ、売り子の声が通りに響き、その圧倒的なパワーに目をきょろきょろさせながら練り歩く。

こういうパワーあふれる雑然さに満ちたところを歩くと、日本もアジアなんだなぁ、と実感する。

いいなぁ、こういう雰囲気。

…そういえばお腹がすいた。グゥ。

どこかおいしそうなお店でもないかなと探し、築地直送と書かれたほとんど露店のような「みなとや」というお店に入る、というか座る。

注文したのは特盛り丼。税込み700円也。

ご飯の上にのるネタは、
イクラ、サーモン、ネギトロ、中トロ、赤身、イカ。

値段の割にはいろいろのって「得盛り丼」。 素晴らしい。

のってるワサビをしょう油皿にちょんと入れ、しょう油で溶いてネタにさっと一回り。

露店で出されるこういう丼物は、椎名誠風にわしわしと食べるのが作法。

よって、箸にこんもりネタと御飯をとって口に頬張りわしわしと喰う。

わしわし。

ウマイぞ、こんにゃろ。

ペロッとたいらげセルフのお茶をすすっていると、近くの魔利支天の鐘が鳴る。ゴーン。

風情。 というより混沌。

なにしろ目の前の通りでは黒人がチラシを持ってうろうろしてる。

魔利支天は「気力・体力・財力」の守護神だという。

なるほど、アメ横のパワーは魔利支天の加護によるものか。

思えばまことに密度の濃い一日であったが、それをしめくくるにふさわしい。

posted by RYO at 21:00| Comment(8) | TrackBack(1) | 雑念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おお、なんと豪華な月曜日!
●「第四番」すごく見たくなりました。改めて。「あ、こんなところに虎がいる」ってところ、ぜひ。
●「ロダンとカリエール展」まだやってるんですね。また行こうっと。ブログにコメントいただいた「余白」の話、メモ作りかけてまだupしていませんが、いずれ。
●竹内薫さんの講義、音声ファイル公開していますね。おっ、ということはRYOさんの質問も収録されてる?
●特盛り丼700円、安い! さすがアメ横。
Posted by ukiki01 at 2006年05月17日 06:47
おお、なんと盛りだくさんなコメント!
●「第四番」いいですよ〜。祈りから始まる睦稔さんの製作風景は鬼気迫るものがありますが、それでいて遊びに没頭する少年のようでもあるんですよね。もうぜひぜひ。
●ロダン展、前にブログで触れられていましたよね。
ロダン展という文字を見た瞬間「あ、そういえば!」と思い出したのですが、閉まっていて残念でした。泣。
●もしかして……フフフ。 でもマイクなど使っていませんでしたから聞き取りづらいかもしれませんけどね。
●特盛り丼、「かー、ウメーな、こんちくしょう。」って感じでした。さすがアメ横。
Posted by RYO at 2006年05月17日 07:48
ボクネンズアートの「海響展」とても良さそうですね。私も行ってこようかな☆
相対性理論は恋愛の中にも存在するのですね!
(って解釈でいいのかなぁ・・)以後参考にさせていただきます。
あっ!シソチャンから芽が出ました!とっても嬉しい(^0^)
Posted by スノー at 2006年05月17日 12:48
「海響展」良かったですよ〜。
展示会は毎月テーマを変えて行なっているそうですから、惹かれるテーマのときにふらっと立ち寄るのもいいかもしれません。
「そう。相対性理論は恋愛においても成り立つのです。」とか言ってみたりして。
でもアインシュタインが日本を訪れたときは、日本中で相対性理論ブームが巻き起こり、恋愛から何から「おやまあ相対的ですね」と謳うのが流行ったそうですよ(笑)。
相対性理論が何なのかよく分からないままのブームでしたしね。
シソチャン元気そうで何より。収穫まで丁寧に可愛がってあげてください。
Posted by RYO at 2006年05月17日 19:34
見てきましたー、ラピュタ(初の)で。
いやあ、睦稔さん、なんてすてきな方なんでしょう。
また沖縄に行きたくなりました……って単純すぎるな……。
ギャラリーにはぜひ近々行くべし、と心に決めました。

とりあえず勢いでブログに書き、トラックバックもさせていただきました。
よろしくご査収くださいますよう。
Posted by ukiki01 at 2006年05月21日 22:09
観ましたか!
ホント、素敵な人ですよねぇ。
私はまだ一度も沖縄に行ったことがないので、やっぱりリアルに味わいにいきたいですね。
沖縄にもボクネンズアートがあるそうですし、いつかきっと。
Posted by RYO at 2006年05月21日 23:45
こんにちは。みつひろと申します。はじめまして。

以前から、こっそりちょくちょくちゃっかり読ませていただいてました。

RYOさんの語り口というか、言葉が生きているというか、読むと頭と体が活気づくようです。

そこで、改めて最初から読み始めることを決意して、やっと2006年05月16日付けのこの記事にたどりついたところです。けっこう急ぎめでしたが、やっぱり全部おもしろいです。

ところで、上記では茂木先生の講義に出席&質問さえたということで、もしやと思い、茂木先生のブログを検索したら、『時間と空間:四次元空間を思い描く方法』の講義の音声ファイルが見つかりまして、さらに聞いてみたら…
85分30秒あたりで、まさに上記と同じ質問の音声が…。
ちょっとしたビンゴのうれしい気分で書き込んでしまいました。

よーし、現在まであと後一年分。わくわくどきどき…

…そういえば「どきどき」はわかるのですが、「わくわく」ってからだ的には…ちょっと考えてみます。

お邪魔しました。


Posted by みつひろ at 2007年05月08日 03:31
みつひろさん、こんにちは。はじめまして。
なんだか素敵な褒め方をしていただいて、嬉しいやら照れ臭いやら…
しかも最初から読み直してくださっているとは、これまた恐悦至極。
どうもありがとうございます。励みになります。
多謝、多謝。

でも音声ファイル、私の質問もきちんと入っていたんですね。
後ろのほうに席を取っていたので、あんまり声は入っていないかなと思っていたんですが、最新のICレコーダーの性能をなめておりました。
そんなところまでチェックされてしまうとは、お恥ずかしい限りで。

しかし、言われてみれば「わくわく」とは何のことでしょうね。
「どきどき」は心臓の鼓動のこととしても、「わくわく」とは一体何が湧く(沸く)のか?
言葉の使い方を調べてみると、人気が沸く、歓声が沸く、希望が湧く、といった感じで使われているみたいですけど…。

…う〜ん…からだに訊いてみます。
Posted by RYO at 2007年05月08日 14:19
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