2013年10月16日

まっすぐに風立ちぬ

気づけば10月も中旬。

ということは夏休みが終わってからもう1ヶ月半も経っているということである。

う〜ん、時は加速して過ぎてゆく…。


この夏は映画「風立ちぬ」を観てから、その影響で子どもと飛行機三昧の夏を過ごした。

長野で出会った26年グライダー作りをしているというヒコーキおじさんに、重さわずか4gほどというバルサで作れるグライダーの作り方を教わり、久しぶりの模型工作に興じていたのだ。

これがその英姿。



ホントに軽くて、そして恐ろしくよく飛ぶ。

手で持って空気に乗せるように押し出すだけでもふわーっと軽く飛ぶし、太い輪ゴムに引っかけて打ち放すように飛ばせば軽く10mくらいは舞い上がって、そのまますーっと30秒以上は滞空しながらゆっくりと舞い降りてくる。

いや〜、美しい。

そのさまは何とも優雅で、バルサの白木色が蒼い秋空によく映える。

おじさんが20年以上もヒコーキづくりにハマってしまうのもよく分かる。


ところで映画「風立ちぬ」は、我が家では子どもも含めみな絶賛の高評価だったのだけれども、世間的にはずいぶん評価が分かれているようである。(子どもはとにかくヒコーキばっかり見てたけど)

まあたしかにこの映画、「親切な説明」というものはほとんど無いし、お話自体のクライマックスというものもよく分からないし、何の物語なのかもよく分からないし、最後も「ん?それで?」と思ってしまうくらい淡々とした描写である。

零戦の設計者が主人公というからその飛行機づくりがテーマなのかと思いきや、どうもそれが映画の主題なのでは無い、というトリッキーな物語構成に多くの方が戸惑ったことだろう。

前作の「崖の上のポニョ」を観たときも、「すごい作品を作ったものだ」と驚かされたのと同時に「これって一般に受け入れられるのかな?」という不安を抱いたが、今回の「風立ちぬ」もそれと似た印象はたしかにあった。


けれどもそういう映画に抱いた客観的な印象と、個人的に好きかどうかという評価とは別のものであって、私自身は「風立ちぬ」は好きである。

何がって、とにかく次郎の「まっすぐ」である。

主人公の次郎のまっすぐさは、幼少期のエピソードに始まり、ことあるごとにくり返し描かれているが、宮崎監督はあの「まっすぐ」を描きたかったんだと思う。(と思っていたら、まったくその通りのことを企画書に宮崎駿本人が書いていた)


宮崎監督はとにかく「まっすぐ」を描きたかった。

だが、次郎のそのまっすぐさは、妹の加代には「薄情」と呼ばれ、親友の本庄には「マンネリズム」と呼ばれ、上司の黒川には「エゴイズム」と呼ばれ、劇中の人物の口を借りて、たびたびボロクソに言われている。

次郎はどれも否定しないし否定できない。本人が「その通りだ」と思っているからだ。

次郎本人も最後のシーンで「最後はボロボロでした」と言っているが、だが次郎あるいは宮崎駿にとっては「それでもなお」なのである。


「芸術は爆発だ!」のフレーズで有名な岡本太郎は、スキー場に行けば直滑降しかしなかったそうだし、車の後部座席に座っていても顔は運転手より前に出ていたそうである。しかも赤信号で止まると「止まるな!進め!」とどなりつけたというから、その「岡本太郎っぷり」たるや筋金入りである。

岡本太郎もまたまっすぐな人であったが、次郎のまっすぐっぷりはそれを彷彿とさせる。


私が一番印象に残っているのは、結核の療養所を抜けだして会いに来た婚約者の奈緒子を、次郎が抱き止めながら「帰らないで」と口に出すシーンだ。

病院を抜けだしてきた重病人に「帰らないで」とは、あんまり素直でまっすぐすぎる。

薄情でエゴイズムと言われても仕方が無いだろう。

でもその「まっすぐさ」が美しいのだ。

次郎自身が自分の業をすべて知りながら、「それでもなお」のまっすぐが美しいのだ。

宮崎監督はなんだかややこしくなりすぎてしまった今の時代に、こんなまっすぐさを描きたかったのだと思う。

まっすぐ生きるなんて、どう考えたってボロボロになっていくしかない。

それはホントにホントに大変な生き方であって、自分自身がそんな生き方をしたいとは思わないけれども、でもその在り方に美しさを感じないではいられないのも、また事実である。


「風立ちぬ」。「何の映画か」と言われると何とも答えに窮するが、「どんな映画か」と言われれば「まっすぐを描いた美しい映画です」と私は答える。

それはやはり主題歌通り、「ヒコーキ雲」のような映画であるかも知れない。

posted by RYO at 21:32| Comment(13) | TrackBack(0) | 雑念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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